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"切れたと。あたしのお花ちゃんがとワイン二本開けていったぞ」

(ドキィ!)玲華のほうがドキとなった。真宮とアレコレの夜である。
兄の追及は厳しいを知っている。開き直って髪をかき上げた。

「あ、うん 東京置業 ええ。女優に必要な性的魅力を……ね。教えてもらってたのよ。もうあたしは他の女優には負けない自信がある!絶対にあの役取り返す!」

「性的魅力?!あのな、おまえはそういう役では無くて。どうしてそっちへ行くんだ。もう俺が仕事探してやりたいよ。自分の良さがちっとも分かってないな」

「あたしの良さ?」
「エトワールみたいな。……飛べないバレリーナの役とか」
「ああ、怪我したから嫌」玲華はぷいっとほおを膨らませて反論する。

兄は「は~~~~~~」と気が抜けそうな長いため息を吐いた後、「おまえ、やっぱり自分が分かってないな」と痛恨の一撃を飛ばして来た。

「性的魅力は教えてもらうものではなくて」としれっと告げてまた珈琲を買い始める。コップに入った珈琲を手にした瞬間に言ってやった。

「ちゃんとセックスしたよ。それも何度も。ちゃんと教えてもらった。正面、横、後ろ、全部快感って変わるし、慣れてくると蕩けるようになってくの」

「おい、智花!」


玲華は止まらない。兄の俄然ぶりなどお構いなしで、腕を組んだ。

「知ってる?絶頂の途中で刺激が重なると、わけがわかんないほど、痺れちゃうの。お兄ちゃん、あそこまで女を抱けた?なさそうだけど。なんか、味も毒もないふつーのセックスして、ホワッと終わって寝てそう」

思惑通り兄は珈琲を噴き出して、「な、なに?」と慌てふためいた。この慌てふためきかたがそっくりで嫌になる。だが、玲華はふふんとまたふんぞり返って、兄の足の間の椅子に片足を載せて叫んだ。

「そう、もう、あたしは知ってるのよ!真宮のお陰で男の全てをね!だからお兄ちゃんなんか恐くないのよ。あっはっはーだ!」

「いいから、足を下ろせ、勘違い女優」狼狽した兄に(まずは一勝!)とほくそ笑んだはいうまでもなかった。

玲華は止まらない。兄の俄然ぶりなどお構いなしで、腕を組んだ。

「知ってる?絶頂の途中で刺激が重なると、わけがわかんないほど、痺れちゃうの。お兄ちゃん、あそこまで女を抱けた?なさそうだけど。なんか、味も毒もないふつーのセックスして、ホワッと終わって寝てそう」

思惑通り兄は珈琲を噴き出して、「な、なに?」と慌てふためいた。この慌てふためきかたがそっくりで嫌になる。だが、玲華はふふんとまたふんぞり返って、兄の足の間の椅子に片足を載せて叫んだ。

「そう、もう、あたしは知ってるのよ!真宮のお陰で男の全てをね!だからお兄ちゃんなんか恐くないのよ。あっはっはーだ!」

「いいから、足を下ろせ、勘違い女優」狼狽した兄に(まずは一勝!)とほくそ笑んだはいうまでもなかった。

***

沈黙を破ったは兄である。

「……そいつ、探し出して殴っていいか」
「え?探し出せるの?ならお願い。あいつ、「やり直しましょう」って言って、わたしの名前でアレが大人しくなったんで、「帰ります」ってあたしを置いてったの。やり直しさせなきゃ気が済まない」
「……それはもういいんじゃないかな。ということは、鈴菜玲華の恐ろしさを知っているわけか。普通の男ならこうだ。「マジ? 俺玲華ちゃんとやったの?」それが萎えただと? そうか....」

新しい珈琲をササッと飲み干して、亜貴は頭を抱えて呟いた。

「恐らくそいつは業界人だ。でも俳優じゃないな」
「あ! マネジメントって言ってた!」
「マネジメント? ウチの系列? 四桁のマネージャーがいるが」

亜貴はやれやれと玲華の肩を軽く押さえた。

「おまえ、スキャンダルには気をつけろよ」

「わかってる。でも、あたしはどうしてもあの役が演じたい。色気ないからと取り上げられたじゃ、鈴菜玲華に瑕がつく。絶対にあの監督に、ううん、あの場の女性のトップに立たなきゃ気が済まない。そのためには真宮が必要なの」
「マミヤ、な。....じゃあ見つけてぶん殴るか」

***

沈黙を破ったは兄である。

「……そいつ、探し出して殴っていいか」
「え?探し出せるの?ならお願い。あいつ、「やり直しましょう」って言って、わたしの名前でアレが大人しくなったんで、「帰ります」ってあたしを置いてったの。やり直しさせなきゃ気が済まない」
「……それはもういいんじゃないかな。ということは、鈴菜玲華の恐ろしさを知っているわけか。普通の男ならこうだ。「マジ? 俺玲華ちゃんとやったの?」それが萎えただと? そうか....」

新しい珈琲をササッと飲み干して、亜貴は頭を抱えて呟いた。

「恐らくそいつは業界人だ。でも俳優じゃないな」
「あ! マネジメントって言ってた!」
「マネジメント? ウチの系列? 四桁のマネージャーがいるが」

亜貴はやれやれと玲華の肩を軽く押さえた。

「おまえ、スキャンダルには気をつけろよ」

「わかってる。でも、あたしはどうしてもあの役が演じたい。色気ないからと取り上げられたじゃ、鈴菜玲華に瑕がつく。絶対にあの監督に、ううん、あの場の女性のトップに立たなきゃ気が済まない。そのためには真宮が必要なの」
「マミヤ、な。....じゃあ見つけてぶん殴るか」

兄は「わかった」と呟くと、打ちひがれた如く、椅子に座って足を組んだ。
「見つかる?」
「人事部に問い合わせてみるが、偽名だったらアウトだな。人の妹を傷だらけにして、見つけたら俺自ら制裁するから」
「そ、じゃあ宜しくね!でも手加減して。抱いて貰いたいんだから。ねえ、お兄ちゃん」
「なんでしょうか」
破天荒な妹にがっくりきている兄の返事は上の空だ。玲華はぽそっと心であの夜をなぞってみる。

――あの夜が忘れられない。人生で一番刺激的で、欲しかったものを手にした実感が大きかった夜。真宮は何度も何度も、ゴムを変えては、玲華を気が済むまで追い詰め、愛してくれた。
その行為は泣いてはいても、どこか、満ち足りるような何かが潜んでいて。

――支配されているのに、あたしが支配しているみたいな。玲華が口にしたことを瞬時に真宮は見抜き、快感を高めてくれた。

そのベッドの応酬は麻薬のように玲華に沁みた。

(……また酔っ払わないかな)

しらふの真宮は単なるヘタレ。やけにあたしの足を気にしていたけど。あれはなんだったのだろう。

「ねえ、支配されつつも、支配するなんて関係があるのかな。泣かされて喚かされていても、あたしはどっかで真宮を操ってた気がするの」


兄は「わかった」と呟くと、打ちひがれた如く、椅子に座って足を組んだ。
「見つかる?」
「人事部に問い合わせてみるが、偽名だったらアウトだな。人の妹を傷だらけにして、見つけたら俺自ら制裁するから」
「そ、じゃあ宜しくね!でも手加減して。抱いて貰いたいんだから。ねえ、お兄ちゃん」
「なんでしょうか」
破天荒な妹にがっくりきている兄の返事は上の空だ。玲華はぽそっと心であの夜をなぞってみる。

――あの夜が忘れられない。人生で一番刺激的で、欲しかったものを手にした実感が大きかった夜。真宮は何度も何度も、ゴムを変えては、玲華を気が済むまで追い詰め、愛してくれた。
その行為は泣いてはいても、どこか、満ち足りるような何かが潜んでいて。

――支配されているのに、あたしが支配しているみたいな。玲華が口にしたことを瞬時に真宮は見抜き、快感を高めてくれた。

そのベッドの応酬は麻薬のように玲華に沁みた。

(……また酔っ払わないかな)

しらふの真宮は単なるヘタレ。やけにあたしの足を気にしていたけど。あれはなんだったのだろう。

「ねえ、支配されつつも、支配するなんて関係があるのかな。泣かされて喚かされていても、あたしはどっかで真宮を操ってた気がするの」


兄は口元に垂れたコーヒーを無言で拭いた。

「兄の俺に刺激的な質問をありがとう、妹。おまえ、SMの心理なんか体験して何やってんだ。どこへいくつもりだ、女王バチにでもなるのか? やめてくれ」

――SM心理?女王……ハチ?

(そういえば、真宮は「傅かせた」とか「支配された」とか……じゃあ、あたしに一番似合うのは、ボンテージ……)

また妙な扉を開けた気がする。玲華は一言「真宮を探してね」と告げると、爪先立って廊下を歩いた。「女王様」。たくさんの蜂が交尾するために戦っているのを上空でゆったりと見ているんだって。

(超、素敵!)

真宮との再会を心待ちにしているこの感情の名前は、まだ玲華は知らなかった――。
兄は口元に垂れたコーヒーを無言で拭いた。

「兄の俺に刺激的な質問をありがとう、妹。おまえ、SMの心理なんか体験して何やってんだ。どこへいくつもりだ、女王バチにでもなるのか? やめてくれ」

――SM心理?女王……ハチ?

(そういえば、真宮は「傅かせた」とか「支配された」とか……じゃあ、あたしに一番似合うのは、ボンテージ……)

また妙な扉を開けた気がする。玲華は一言「真宮を探してね」と告げると、爪先立って廊下を歩いた。「女王様」。たくさんの蜂が交尾するために戦っているのを上空でゆったりと見ているんだって。

(超、素敵!)

真宮との再会を心待ちにしているこの感情の名前は、まだ玲華は知らなかった――。
***

「――って、玲華、なんで気付かないの?」

語り終えた玲華は「ん?」とマルガリータを口に運んだところである。大河は無表情でカクテルシェイカーを振っている。葉月は玲華のお代わりのカクテルにさくらんぼをちょいと浮かべた。

Cinderellaに珍しく鈴菜玲華がやって来て、大河は慌てて「閉店」の札を下げに行き。結果店をまんまと貸し切った大女優はゆったりとカクテルテーブルで想い出を語りだして1時間。

玲華とはなぜか急接近。液晶のこっち側とあちら側で睨んでいた顔が葉月に向けられている自体が不思議。

しかも玲華のマネがあの真宮。

(まさかとは思っていたけどね....)

2人の間に育っている薔薇はどっちも放置。どちらも愛を育てようとは思わないあたりがらしくて強い。

「気付かないってなによ」

「いえ……大河ぁ、大女優さんがぼけてまーす」

「呆けてないよ。何よ、せっかくスケジュール真宮から預かって来たのに。でも、まさか大鳥大河がこんなバーをやってるなんてねぇ」


――どうやら真宮が口を滑らせたらしい。葉月はちらっと大河を見た。大河はにっこり笑って「どうぞ」と酔い覚ましデザートを手早く差し出す。偶然手がぶつかって、きょとんと葉月は大河を見やった。

「お 悪い」
「それコーヒー?」

大河は頷く。

「そ。アフォガードって言うんだ。甘めのコーヒーリキュールな。バニラアイスに掛けて....と……ちょっとしたデザートだよ」

やり取りをじいいいいいと見ていた玲華がちょいちょい、と葉月を手招いた。

「あんたたち、付き合って、それなりに関係持ってんでしょ。それも当たり前的な濃密さの」

がちゃん、とオーナーが何かを落とす音。

「あー……やっぱわかっちゃう?」

"
 

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